VOID Chicken Nugget 2013.1.28号「縁」
VOID Chicken Nugget 「縁」
清水美帆
メールマガジン VOID Chicken Nugget に 今までの活動やDavis Museumのために制作した「Tomorrow & Yesterday」について書きました。VOID Chickenの柘植さんと坂口さんにはイギリスに行った頃の90年代にお会いし、Danger MuseumのショップでVOIDの販売をさせていただいていた縁があります。
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[2] アーティスト特別寄稿
「縁」 by 清水美帆
◆Danger Museum
デンジャー・ミュージアム(Danger Museum)でコラボレーションをしているオィヴン・
レンバーグ(Øyvind Renberg)に初めて会った時は、後に10年も一緒に制作を続けると
は思わなかった。イギリスの大学で同じスタジオに居たとき、彼が私に向かって「ちょ
っとそこ黙って!」と叫んだのをよく覚えている。時計の静物画を黙々と描いているアー
ティストには、雑談から作品を作る私のようなアーティストはうるさくて不愉快だっ
たのだろう。ロンドン大学ゴールドスミス・カレッジ大学は、様々な制作手法や考え
の人たちが集まるとても刺激的なところだった。そしてアーティスト達との雑談から
はいろいろなアートプロジェクトが生まれた。今も進行中のデンジャー・ミュージア
ムは1998年から始めていて、当初は車を美術館に見立てたり、首から箱を掛けて個展
や寿司バーとして歩いたりと、今にして思えば勢いでやりとげるような企画ばかりだ
ったけど、幸い多くのアーティストが面白がって参加してくれた。現在もそのほとん
どが、クリエイティブな分野やアーティストとして世界中で勢力的に活動していて、
なんだかとてもうれしい。
◆Davis Museum
バルセロナが拠点のディヴィス・ミュージアムは世界各地にそのコレクションを出張
展示もしている世界最小の美術館で、アーティストのディヴィス・リスボラ(Davis
Lisboa)のプロジェクトでもある。今年の1月にそのミュージアムに私たちの作品を寄
贈し、展示は4月末まで行われている。ディヴィス・ミュージアムとは、イギリスにあ
るアルノルフィー二(Arnofilni)で開催された「Museum Show Part 2」展(2011-2012)
に参加した時に、私たちの作品をディヴィスが見て、展示を依頼してくれたのがはじ
まりだ。「Museum Show」展はPart1とPart2の二部構成で、美術館にまつわる作品やプ
ロジェクトをしている人たちの作品、例えばデュシャンのような歴史に残る名作から、
私たちのような現代の作品を集めた展覧会だった。Part1に参加した彼には実際に会っ
たことはなかった。けれどもウェブなどを通して彼のアーティストとしての真摯な姿
勢を感じ、既存の作品ではなく新作を制作することにした。その作品が「Tomorrow &
Yesterday」だ。
◆Tomorrow & Yesterday
「Tomorrow & Yesterday」は古代メソポタミア文明で作られていた円筒印象から発想
を得ている。作品はギリシャの神殿にあるような柱の形をしていて、柱には装飾が彫
られている。そのモチーフは男が鳥をナイフで狩り、そんななかヒナが卵から生まれ
ている様子だ。柱の土台(上と下の部分)が外せるようになっていて、筒を粘土の上に
転がすと、この光景が繰り返しレリーフとして現れる。この男と鳥とヒナの追いかけっ
こは、男と女の関係も思い起こさせる終わりのない堂々巡りだ。柱の形をしたこの作
品が小さな美術館を支える格好になるのはデザインのうちで、それはパルテノン神殿
等を思い起こさせるかもしれない。またこれは、2010年頃から取り組んできた絵巻物
をテーマにした作品群の延長上にある。
ディヴィスはいつも展示する作品の映像を制作する。私たちの映像の内容については
特にやり取りはなく、すべてを彼に任せた。作品がディヴィス・ミュージアムで一般
公開される直前に、映像がネット上にアップされた。それを見たとき、私たちの作品
の意図が伝わっていた上で、彼が映像という形で答えてくれて作品に広がりを作って
くれたことがしみじみと伝わり、感激した。うまくキャッチボールが作品を通してで
きたと実感できた瞬間だった。他の人と共同で制作することは、制作の過程で紆余曲
折を共有しながら一つの物を作り上げるため、それはそれで大変さがある。でも、今
回のように思いがけない出会いが実のあるものになると、とてもやりがいを感じる。
◆Miho Shimizu
90年代後半、アーティストとして意識し始めたロンドンの大学時代を思うと、かなり
作品が変わっているように思われるかもしれない。VOID chickenの柘植さんと坂口さ
んに初めてお会いしたのもその頃だった。でも、自分の中ではつながりがある。ずっ
と旅、出会い、経験を表現してきた。最近の作品はより抽象的になり、誤解や新たな
解釈を恐れなくなっている。観客に作品をゆだねる姿勢がでてきて、作家の意図はあっ
ても、それは受け手の感じ方を縛るものであってはならないと思うようになった。ディ
ヴィス・ミュージアムが制作した私たちの映像のように、予想できない展開を期待し
ているのかもしれない。旅することも私の活動には大事だけれども、最近はそれに疲
れてきて、作品の中で旅というテーマに取り組みたいと思うようになってきた。
作品は見られること、そして時には参加を促し、使われることが前提にあると私は思
う。移動美術館では美術と観客の距離にとても興味があったけれど、活動をしている
うちに観客がどのように空間を動くかを考えるようになり、食べ物の形をしたソファ
(韓国の麺トック、ピーナッツ、ベルリン・ホットドッグ、ポーランドのドーナッツ、
草餅など)など、触れることや展示スペースに長居してもらうことを観客に促す作品も
作るようになった。美術を実用的な物に応用する応用美術(Applied arts)やデザイン
への興味もここから来ている。今はコラボレーションとしてはディヴィス・ミュージ
アムの作品から発展させた映像作品を計画していて、歌舞伎の見得や平面的に描かれ
る書割、回転舞台、演劇の世界で使われる化粧、衣装、そして見立てをリサーチして
いるところだ。これからはソロとしての活動も増やし、日本でも発表するなどなんら
かの形で自分のプロジェクトも実現させたいと思う。
清水美帆(しみずみほ・現代美術家
リンク
Danger Museum(清水美帆&オィヴン・レンバーグ)
日本語は随時アップデート中
http://www.dangermuseum.com/ja
Danger Museum「Museum Show Part 2」
http://www.dangermuseum.com/ja/museum_show_part2/
http://www.arnolfini.org.uk/whatson/exhibitions/details/1170
Davis Museum「Tomorrow & Yesterday」
http://www.dangermuseum.com/ja/davismuseum/
http://www.davismuseum.com/index.php?/exhibitions/2013/